にじさんじ所属のVTuber・夢月ロアさんをめぐる騒動が、約5年半という長い時間を経て大きな節目を迎えました。
発端となったのは、2020年に起きた金魚坂めいろさんとの「話し方」をめぐる問題です。
そこから「夢月ロアさんが新人をいじめて辞めさせた」という疑惑が広がり、ロアさんは長期の活動休止へ。
しかし、2026年に成立した和解では、ロアさんが金魚坂めいろさんにいじめや不当な嫌がらせをした事実は存在しないことが確認されています。
さらに、鳴神裁さんが動画で扱った情報についても、第三者から提供された虚偽の情報に基づくものだったことが明らかになりました。
では、2020年には何が起き、なぜこれほど長く尾を引く騒動になったのでしょうか。
当時広まった話と、約5年半後に確認された事実を分けながら整理します。
夢月ロアと金魚坂めいろは何があった?
騒動の始まりは、夢月ロアさんと2020年にデビューした金魚坂めいろさんの話し方が似ていると指摘されたことでした。
夢月ロアさんは「魔界から来た悪魔」というキャラクターで、独特の「魔界なまり」を使って活動していました。
一方、金魚坂めいろさんにも特徴的な話し方があり、両者の口調が似ているという声が出るようになります。
ただ、めいろさん側の説明では、ロアさんを意図的にまねたものではありません。
育った環境から身についた本人の方言で、緊張すると自然に出てしまうというものでした。
ロアさんは運営に対し、自身が作ってきたキャラクターの世界観を守るため、可能な限り話し方を訂正してほしいと要望します。
ここだけを見ると、「先輩が新人に方言をやめさせようとした」という印象を持つかもしれません。
ただ、実際の経緯はそれほど単純ではありませんでした。
運営は双方に公平な立場を取る必要があり、「金魚坂めいろさんは夢月ロアさんを模倣していない」という形で公式声明を出すことはせず、別の折衷案を提示しています。
その後、金魚坂めいろさんには秘密保持義務に違反する行為が認められ、2020年10月に契約解除となりました。
つまり、金魚坂めいろさんの契約解除と「夢月ロアさんがいじめて辞めさせた」という話は、そのままイコールではありません。
ところが、この時期からネット上では別の物語が出来上がっていきます。
「先輩と新人の話し方が似ていた」
「先輩が運営に要望を出した」
「その後、新人が契約解除になった」
一つひとつは別の出来事です。
それが一本の線で結ばれ、「夢月ロアが新人を追い出したのではないか」という疑惑へ変わっていったのです。
鳴神裁の動画でいじめ疑惑が拡散
疑惑が一気に広がる大きなきっかけとなったのが、外部のVTuber・鳴神裁さんによる動画でした。
鳴神裁さんは2020年10月から11月にかけて、にじさんじ運営や夢月ロアさんと金魚坂めいろさんの問題を扱った動画を複数公開。
そこで、ロアさんがめいろさんにいじめや不当な嫌がらせを行い、引退に追い込んだという趣旨の情報を発信しました。
しかも、単なる感想として語られたわけではありません。
動画では、画像や内部情報のように見える材料も提示されていました。
ここが大きかったのだと思います。
外から見ている人にとって、「関係者しか知らないような情報」や「証拠らしく見える画像」が出てくれば、単なるネットの噂より信じやすくなります。
さらに、「先輩が新人を潰した」という構図は非常に分かりやすい。
複雑な運営とのやり取りを知らなくても、一瞬で理解できてしまう物語だったわけです。
その結果、ロアさんへの誹謗中傷は急速に拡大し、2020年10月頃から実質的な活動休止状態となりました。
しかし、2026年になって、この「証拠」の見え方が大きく変わります。
鳴神裁さんが「証拠」として拡散した画像や情報は、第三者から提供された虚偽の情報に基づくものだったことが、和解によって確認されたからです。
鳴神裁さん側も、情報は主に当人や所属ライバー、内部情報を持ち込んだ人物などから得ていたものの、事実と異なる部分があったことを認めています。
そして、結果として虚偽の情報を伝えてしまったとして謝罪しました。
2020年当時には「内部情報だから信憑性が高そうだ」と見えていたもの。
それが約5年半後、まったく違う意味を持つことになったのです。
活動休止から裁判まで約4年間の経緯
ロアさんは活動を休止したあと、すぐに表舞台へ戻ることはできませんでした。
一方、水面下では法的な対応が進められていきます。
代理人の小沢一仁弁護士を通じて発信者情報開示請求などを行い、情報を発信した相手の特定を進めました。
刑事告訴も行われましたが、こちらは不起訴となっています。
そして2024年11月、東京地方裁判所に民事訴訟を提起。
主な対象となったのは鳴神裁さんが2020年に公開した動画で、名誉毀損や名誉感情侵害、営業権侵害などを理由に、慰謝料や逸失利益など約2240万円の損害賠償を求めました。
被告側からは、同定可能性がないことや公益目的だったこと、提供された情報が真実だと信じていたことなどが主張されます。
こうして時系列で見ると、2020年のネット上の騒動が、2024年になって突然裁判へ発展したわけではありません。
表から見えないところで情報の特定や法的手続きが続き、その先に民事訴訟があったという流れです。
ロアさん本人は後に、「やっていない事をやっていないという証拠は出せないのでこれだけたくさんの時間を失ってしまいました」と振り返っています。
この言葉は、今回の問題の重さをかなり端的に表しているように思います。
何かを「やった」と主張する側は、もっともらしい画像や話を提示できます。
ところが「やっていない」側が、存在しない出来事について証拠を出すのは簡単ではありません。
疑惑だけが先に広がれば、否定しても「本当なの?」という目で見られ続ける。
その状態から名誉を回復するまでに、何年もの時間が必要になりました。
裁判・和解で明らかになった事実
大きな転機となったのが、2026年5月18日に成立した和解です。
その内容は同年8月13日、ANYCOLORと小沢弁護士から正式に公表されました。
今回確認された重要な点は明確です。
夢月ロアさんが金魚坂めいろさんに対して、いじめや不当な嫌がらせを行った事実は存在しません。
また、他のライバーやANYCOLORと共同で、そのような行為を行った事実もないとされています。
さらに、鳴神裁さんが動画で証拠として扱った画像や情報についても、第三者から提供された虚偽の情報に基づくものだったことが確認されました。
そのため鳴神裁さんは、動画配信の内容が事実に反するものだったと認め、ロアさんに謝罪する形で和解しています。
ここは、2020年当時の噂と混同しないことが重要です。
今回確認されたのは、「どちらが性格的に悪かったのか」といった話ではありません。
ロアさんがいじめや不当な嫌がらせをしたという、長年拡散されてきた疑惑そのものが否定されたということです。
一方で、ここから未公表の部分まで推測し、「では誰がすべて悪かったのか」と新たな犯人探しを始めるのも話が違います。
虚偽情報を最初に持ち込んだ第三者の詳細など、公開されていない部分は残っています。
金魚坂めいろさん側についても、今回公表された内容を超えて内情を断定することはできません。
ロアさん本人は、判決まで争うのではなく和解を選んだ理由について、「少しでも自分に起きたことを知ってもらうため」と説明しています。
代理人の小沢弁護士も、単に金銭請求について判決を得るより、経緯を確認して名誉を回復することが適切だと判断した旨を説明しました。
つまり今回の和解は、勝った・負けたの一言だけでは捉えにくいものです。
「何が事実ではなかったのか」を残すことに大きな意味があった和解だったのでしょう。
約6年を経て残った本当の問題
今回の騒動で重く残るのは、虚偽の情報が広がったことだけではありません。
一度「もっともらしい物語」が完成すると、それをひっくり返すには途方もない時間がかかる。
そこにも、この騒動の重さがあります。
2020年当時を振り返れば、疑惑が信じられやすい材料はそろっていました。
話し方が似ている二人。
先輩から運営への要望。
新人の契約解除。
そこへ「内部情報」と「証拠らしい画像」が加わる。
事情をすべて知らない側からすれば、点と点が一本の線につながったように見えてしまいます。
しかも「人気の先輩が新人を潰した」というストーリーは、複雑な事情より圧倒的に理解しやすい。
ネットでは、正確だけれど説明に時間がかかる話より、短くて分かりやすい話のほうが先に走ることがあります。
今回、それが一人の活動に約5年半もの空白を生む結果につながりました。
だからこそ印象的なのが、ロアさんの「やっていない事をやっていないという証拠は出せない」という言葉です。
疑われた瞬間に「無実なら証明すればいい」と言うのは簡単でしょう。
でも実際には、起きていない出来事を証明することほど難しいものはありません。
そして、事実が明らかになったからといって、失われた約5年半が戻ってくるわけでもない。
今回の和解で、大きな区切りはつきました。
ただ、この騒動で本当に重かったのは、ネット上で誰かが間違ったことを言ったという一点だけではないのでしょう。
証拠らしく見えるものと、分かりやすい物語がそろったとき、人は想像以上に簡単に「もう答えは出た」と思ってしまう。
2020年に出来上がったその答えを覆すために、約5年半。
その時間の長さこそ、この騒動が残した一番重い事実なのかもしれません。